掲示板連動企画


トライオン提督の残せしもの
much is taken, much abides; Admiral Tryon's heritage





 このページは、以前に三脚檣掲示板で連載した「トライオン提督の残せしもの」に連動して、写真や図面を掲載したものですが、掲示板運営会社が当該掲示板を閉鎖してしまったために、本文を読むことができなくなっています。
 対象とした事件は、19世紀後半にイギリス地中海艦隊司令長官を務め、艦隊運動命令の錯誤から戦艦同士の衝突事故を招き、自らとともに戦艦『ヴィクトリア』を沈めてしまったトライオン提督に関するものですが、全体を冊子として編集し、有償での配布を行う予定ですので、当分の間ここに本文が掲載されることはありません。




Vice-Admiral sir George Tryon K.C.B.

英国海軍サー・ジョージ・トライオン提督



HMS Hercules

 中央砲廓艦『ハーキュリーズ』

1888年の年次演習において、トライオン少将の旗艦だった。1868年完成
 常備排水量:8,677トン、14.69ノット、10インチ前装施条砲8門、9インチ前装施条砲2門、7インチ前装施条砲4門、舷側の暗く見える部分は、砲廓砲からの前後方射界を確保するための窪み。



 1888年の演習に参加した<防衛艦隊>側の艦艇は資料に艦名の記載がなく、詳細は判らない。ここではその性能に大きな意味はないのだが、参考までに記せば、当時の英国海軍を構成する主力艦、装甲巡洋艦の一般的性能は、下記のようなものである。

『ノーサンバーランド』・1868年完成、舷側砲門艦
常備排水量:10,784トン、14.13ノット、9インチ前装施条砲7門、8インチ前装施条砲20門

『モナーク』・1869年完成、砲塔艦
常備排水量:8,322トン、14.94ノット、12インチ前装施条砲4門

『サルタン』・1871年完成、中央砲廓艦
常備排水量:9,290トン、14.13ノット、10インチ前装施条砲8門、9インチ前装施条砲4門

『デヴァステーション』級2隻・1873年完成、航洋モニター
常備排水量:9,330トン、13.84ノット、12インチまたは12.5インチ前装施条砲4門

『アレキサンドラ』・1877年完成、中央砲廓艦
常備排水量:9,492トン、15.09ノット、11インチ前装施条砲2門、10インチ前装施条砲10門

『テメレーア』・1877年完成、中央砲廓・砲塔艦
常備排水量:8,540トン、14.65ノット、11インチ前装施条砲4門、10インチ前装施条砲4門

『ドレッドノート』・1879年完成、航洋モニター
常備排水量:10,886トン、14.52ノット、12.5インチ前装施条砲4門

『ネプチューン』・1881年完成、砲塔艦
常備排水量:9,130トン、14.22ノット、12インチ前装施条砲4門、9インチ前装施条砲2門

『インフレキシブル』・1881年完成、中央砲塔艦
常備排水量:11,880トン、14.75ノット、16インチ前装施条砲4門

『アガメムノン』級2隻・1883年完成、中央砲塔艦
常備排水量:8,510トン、13ノット、12.5インチ前装施条砲4門、6インチ後装砲2門

『コロッサス』級2隻・1886年完成、中央砲塔艦
常備排水量:9,420トン、16ノット、12インチ25口径後装砲4門、6インチ後装砲5門

『コンカーラー』級2隻・1886年完成、二等級砲塔艦
常備排水量:6,200トン、14ノット、12インチ25口径後装砲2門、6インチ後装砲4門

『インペリュース』級2隻・1886年完成、装甲巡洋艦
常備排水量:8,500トン、16.75ノット、9.2インチ後装砲4門、6インチ後装砲10門

『コリンウッド』級1隻・1887年完成、露砲塔艦・準同型艦5隻を建造中
常備排水量:9,500トン、16.8ノット、12インチ後装砲4門、6インチ後装砲6門


 ほぼ20年にわたって、最大級の主力艦に顕著な大きさの拡大がないことに注意してほしい。『ノーサンバーランド』、『インフレキシブル』の建造時には、その大きさと価格に批判があり、以後の主力艦には縮小が求められている。

 舷側砲門艦や中央砲廓艦は、乾舷の高い船体を持っているため、砲塔艦に比べてはるかに居住性が良く、平時の艦隊では長く旗艦として用いられた。『ノーサンバーランド』は1880年代まで現役にあったし、『アレキサンドラ』は23年間にわたって艦隊旗艦を務めている。トライオンの旗艦だった『ハーキュリーズ』も、この演習後に大改装を受け、性能を向上してなお現役にとどまっていた。

 いずれももちろん、19世紀末には戦闘力など期待できない水準だったのだが、主力だった装甲砲塔艦は居住性が極端に悪く、十分な旗艦要員の居住区を確保しにくかったのである。スパルタンな英国海軍の提督といえども、平時の艦上生活には快適さが優先されたのだろう。



HMS Victoria

砲塔艦『ヴィクトリア』

 写真は完成時の状態で、並列に並んだ煙突が低い。これは後に17フィート(約5.1メートル)伸長されている。



HMS_Arrogant

イギリスの二等巡洋艦『アラガント』 Arrogant

 1896年5月26日進水、98年就役、常備排水量5750トン
 全長104.24m、垂線間長97.54m、幅17.53m、吃水6.1m
 兵装は6インチ (152ミリ) 砲4門、4.7インチ (120ミリ) 砲6門で、速力は19ノット
 防御甲板は3インチから1.5インチ (76ミリから38ミリ)
 砲配置は、6インチ砲が艦首尾中心線上と、艦橋の両舷である。4.7インチ砲は中央部両舷に3門ずつ、並列に置かれていた。魚雷発射管は3門で、中央部両舷に18インチ (457ミリ) 魚雷の水中発射管と、艦尾に水上発射管を装備している。同型艦は4隻で、『アラガント』 Arrogant、『フューリアス』 Furious、『グラディエイター』 Gladiator、『ヴィンディクティヴ』 Vindictive である。

 外見上は、直前に建造された『エクリプス』級の二等巡洋艦とほとんど変わらず、武装もほぼ同じである。大きな違いはその戦術用法で、このクラスは艦首に大きな衝角を備えており、これを用いて敵主力艦に当たろうとしたのである。
 もちろん、主力戦列に加われるものではなく、主力艦隊の後衛として付属し、敵主力に落伍艦が出た場合、これにトドメを刺すために衝角を用いようとしたものだ。艦首の衝角は、防御甲板と艦首から12メートルの範囲のみに張られた2インチ (51ミリ) の舷側装甲によって補強されている。
 司令塔は前級の6インチに対して9インチ (229ミリ) の厚さに装甲を増し、敵主力艦の砲撃下に衝角突撃を敢行しようと考えている。主舵の前に副舵を備え、艦尾下のスケグを取り除いて、ほぼ同じ長さの『アストリア』級の半分近い旋回径を実現した。

 ちなみに『エクリプス』の要目は、以下のようなものである。
 1897年完成、5600トン、全長113.69m、垂線間長106.68m、幅16.31m、吃水6.25m
 6インチ砲5門、4.7インチ砲6門、19.5ノット、防御甲板の厚みは『アラガント』と同じ。
 1門多い6インチ砲は、艦尾のものが並列に置かれているから、片舷攻撃能力は同等である。




参考資料
●Admirals in Collision / Richard Hough / Ballantine Books 1959
●All the world's fighting ships 1860-1905 / Conway Maritime Press
●Battleships in Action 1-2 / H. W. Wilson (1926) / Conway (1995)
●Life of Vice-Admiral Sir George Tryon K.C.B. / Rear Admiral C. C. Penrose Fitzgerald / William Brack and sons 1897
●The Guinness Book of Naval Blunders / Geoffrey Regan / Guinness 1993
●日本海軍お雇い外人 / 篠原宏 / 中公新書893 1988
●明治二十七・八年海戦史 / 海軍軍令部
●協力・服部浩洋氏、深雪由紀氏




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