三脚檣写真帖 (1)
Photo Album 01 (Tampion 1)


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 ようこそ三脚檣写真帖へ

 ここでは昔の軍艦の写真を中心に、普通の書籍やホームページでは取り上げないような、一風変わったものを集めてお目に掛けます。

 まずは手始めに、使わないときに大砲の砲口をふさいでおくための砲口栓から。これは砲身内にゴミや水が入らないようにする蓋ですから、戦闘時には必要のないものです。
 砲口栓は砲口蓋とも書くようですが、砲口蓋の読み方ははっきりしません。銃口蓋という単語は一部辞書にあり、「蓋」を「がい」と読むように記されています。「砲口栓」は「ほうこうせん」ですけど、そのまま類推できる「ほうこうがい」には裏付けがなく、不確実です。「ほうこうふた(ぶた)」でもいいのかもしれませんが、なんか間抜けですね。

 英語ではタンピオン tampion (後ろ半分はチャンピオンと同じ発音)と呼ばれています。前装砲時代の素材は木材だったようですが、大口径になるとかなり重くなるはずなので、中空にするなら金属のほうが扱いやすいでしょう。
 これは3種類ほどに分類できるようで、ひとつは正規の備品としての蓋であり、おそらく真鍮などで作られた「磨く対象」です。もうひとつは実用品の木栓で、前装砲時代には消耗品扱いだったかもしれません。最後のは仮蓋とでも言うべきもので、砲口に厚紙や帆布を被せ、紐で縛っただけでした。仮蓋の場合、必要があればそのまま発砲しても差し支えありません。

 備品としての蓋を磨いていたのはどこの海軍でも同じなようですが、そこに意匠を凝らした紋章を付けた儀礼用のものを作っていたのは、イギリス海軍に顕著に見られるところで、他の海軍にはほとんど見られません。ずいぶん写真を漁ってみたものの、他国海軍ではせいぜい星印が見られるだけで、艦ごとに異なっている様子はありませんでした。フランスには一部にイギリスと同様の実例があります。
 たいていは先端に掴むための把手が付いており、これはリングのものとバーのものとに大別できます。日本海軍はバーだったようですね。はめ込むときのバーの向きにも、水平の場合と垂直の場合があり、半端に斜めになっている写真は多くありませんから、それなり気を遣う対象ではあったのでしょう。口径が小さな砲では、突き出したつまみが付いていました。
 イギリスの儀礼用装飾品には艦名に因んだ文様が描かれ、写真に紹介したようなものがありますが、それぞれのいわれまでは判りません。このあたりになると掲示板の常連である hush さんのご専門に近くなり、いろいろと薀蓄を垂れてくださったので、コラムにして書き加えました。ご厚情に感謝。



armoured cruiser Shannon

イギリスの装甲巡洋艦『シャノン』(Shannon 1906=進水年) の9.2インチ連装砲塔

 四つ葉ではなく、三つ葉のクローバーです。
 写真の下のほう、キャプスタンに書かれている文字は、先代の同名艦が参加した作戦を地名と西暦で記録しているものです。1857とか、チェサピークとか読めます。

hush 薀蓄
 シャノンはアイルランド最大の川の名前ですので、アイルランドのクローヴァー、正確にはシャムロック shamrock と呼ばれるものがついているようです。
 アイルランドにキリスト教を布教した聖パトリックが、三位一体を説明するのにこの植物を使用しています。(計画のみに終わったセント・ジョージ級戦艦の1隻にセント・パトリックの艦名があり、ユニオン・ジャックを構成する十字の一つがセント・パトリック・クロスです)   




ironclad Trafalgar

イギリスの装甲艦『トラファルガー』(Trafalgar 1887) 前甲板での記念写真

 左端に13.5インチ主砲の先端が写っています。砲口部分を拡大してみましたが、固定用の金具もあり、しっかりした造りで、図柄は王冠のように見えます。ところで、誰か知り合いに似た人でもいませんか?

hush 薀蓄
 原子力潜水艦トラファルガーのバッジは月桂冠に囲まれた十字なのですが、この装甲艦のは紋章飾りの王冠(クレスト)である、船を並べた王冠のように見えます。
 イギリス艦のバッジの上部には、これがついているのが普通です。   




ironclad Texas

アメリカの装甲艦『テキサス』(Texas 1892) の12インチ単装砲塔

 ご覧のとおり星印が付いていて、中央にリングがあります。

hush 薀蓄
 共和国だった時代の国旗にあったローン・スターかと思いましたが、次の写真で断念(笑)。   




battleship Kearsarge

 同じくアメリカの戦艦『キアーサージ』(Kearsarge 1898) の二重砲塔

 やはり星印が付いているだけで、これにはリングもありません。
 アメリカではこの写真のように、星の角度が日本と違って逆さまに見える場合が珍しくありません。星に対する感覚の違いなのか、なにかいわれがあるのか、国旗と逆なのはなぜなんでしょう。


battleship Tsessarevitch

 これはロシア戦艦『ツェサレヴィチ』(Tsessarevitch 1901) の12インチ連装砲塔

 左砲の砲口栓が外され、直下の髭の水兵さんが、それを保持しています。砲口栓の内側を見られる貴重な写真と言えるでしょうか。差し込み部に傷があるように見えますが、こぼれ止めの細工かなにかでしょう。


battleship Justice

 フランス戦艦『ジャスティス』(Justice 1904) の193ミリ単装砲塔

 なんの色気もありませんね。落とさないための紐が付いているだけ。背後に見える艦載艇揚降用の二又クレーンのほうが、よほど興味深いかも。
 これはボートを吊ったら、そのまま180度回って内側へボートを入れるんです。それゆえ、収納状態のボートは、常識に反して艦と逆向きになります。

 この砲塔に特徴的なのは、旋回部の形状が部分円錐 (回転台形) であることで、これを逆さにした形の逆円錐バーベットとともに、当時の軍艦では珍しいものです。
 この形状は、避弾経始に優れるため砲塔艦初期からしばしば計画されているのですが、装甲鈑につける曲面が上下で異なった曲率となることから加工がやっかいで、多くは計画倒れになっています。前掲の『キアーサージ』のほぼ完全な円筒砲塔は、ここに至れなかった妥協の産物でしょう。


armoured cruiser Rurik

 ロシアの装甲巡洋艦『リューリク』(Rurik 1906) の10インチ連装砲塔

 日露戦争の直後にイギリスで建造された艦で、日本のものとよく似たバー付きのようです。棒を水平にしておくのが定位置でしょうが、いくらか傾いているのはご愛嬌。


 モノクロばっかりでは寂しいので、次からは色付き。新しいものが多いのは当然ですが、現用艦のものは・・・後でね。




battleship Andrei Pervoswanni

ロシア戦艦『アンドレイ・ペルウォスワニイ』(Andrei Pervoswanni 1906) のカラーイラスト

 写真じゃないんで、現物は確認できないんですが、この四本羽みたいなのはなんでしょうか。
 マルタ十字ではないかという声もありましたが、ロシア正教の十字とゴッチャになったのかも。


small_arms

ちょっと趣向を変えて、南北戦争時代の小銃用の木製銃口栓です。中割れになっているほうを銃口へ差し込みます。先端の膨らみを掴んで引き抜くわけね。帆船時代の小口径砲には、同じようなものが使われていました。把手がロープの切れ端だったりしますが。


battle-cruiser Hood

 イギリス巡洋戦艦『フッド』(Hood 1918)

 かのフッドの砲口栓なんですが、これは沈む直前に改装で降ろされた5.5インチ砲のものです。
 カラスが錨を掴んだ意匠は、代々イギリス海軍の要職にあったフッド家の紋章からきており、該家のホームページを開くとドーンと出てきます。


battle-cruiser Hood's Badge

 同じく『フッド』のバッジ

 これは砲口栓ではなく、艦のバッジです。直径は27センチほどだそうです。ご参考までに。


battleship Revenge

 イギリス戦艦『リヴェンジ』(Revenge 1915) の砲口栓を加工して装飾品にしたもの

 砲口栓部分の直径は16センチだそうですから、6インチ副砲用のものでしょうね。図案にされている空想上の動物は、なんだったかな。

hush 薀蓄
 動物は鷲とライオンのキメイラ(キメラ)であるグリフィン(グリフォン)です。
 Loyal devoirは忠義とでも訳すのかな?
 復讐(リヴェンジ)がなぜ?

 グリフォンは、神話ではギリシャのはるか北方スキティアに住むと言う事から、スウェーデン航空機株式会社のマークとして採用されます。Svenska Aeroplan A B、略してSAABと呼ばれるこの会社は、車の製造会社としても有名ですが、同社の車にはこのグリフォンの頭がマークとして描かれています。
 グリフォンのスウェーデン語はグリペンで、同社の最新戦闘機の名に採用されています。




battleship Resolution

 イギリス戦艦『レゾリューション』(Resolution 1915) の保存されている15インチ主砲

 図案は剣を持った獅子でしょうけど、スフィンクスみたいに見えます。


battle-cruiser Repulse

 イギリス巡洋戦艦『リパルス』(Repulse 1916) の砲口栓

 直径15センチ、重量1キログラムだそうですから、4インチ砲用のものでしょうか。少し大きすぎる気はするけど。

hush 薀蓄
 鷲でしょうか。
 今にも飛びかかりそうなのは、艦名の「撃退」と言う意味に合わせたものか。
 なお、原子力潜水艦リパルスの紋章は城壁。   




battle-cruiser Renown

 イギリス巡洋戦艦『リナウン』(Renown 1916) の砲口栓

 直径18センチ、重量1.7キログラムというのですが、該当するような砲は積んでいなかったはずです。主砲用なのかなあ。タンピオンという名前が同じだけで、まったく別なものなのかもしれません。それとも先代のものを間違えているとかかな。
 その後、実艦の砲口栓が写っている写真を見つけたのですが、いかにせん写真が小さすぎ、拡大しても模様までは確認できませんでした。大雑把な感触では、真ん中辺に丸っこい塊が見えるので、この写真と特別矛盾してはいません。もっとも、主砲用なら直径は38センチですから、これがそのものであることは有り得ないのですが。

hush 薀蓄
 「名誉」と言う艦名に合わせて、篝火(聖火?)を月桂冠で覆ったもの。   




battleship Vanguard

 イギリス戦艦『ヴァンガード』(Vanguard 1944) のもの

 これも直径は18センチだそうで、正体は判りません。ライオンというよりマントヒヒに見えるのは、私だけだろうか。

hush 薀蓄
 マントヒヒ…確かに。
 バッジではライオンに見えるのですが。
 ライオンは皇室の紋章と言う事もあってイギリスの象徴なのですが、あまり正確な形は伝わっていないように思います。   




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